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ある日の夢。

一人眠って。夢を見た。
夢は幻。意識の深くに眠るもの。

ならば、過去を映した夢は、幻?


 





めくるめく過ぎて行く、記憶。
いろいろなものが混ざり合い、溶けて、離れて、流れていく。

 


その流れがふと、止まった。

此処は…街。何処かで見たことがあるような気もする。
目の前には、誰かが倒れている。僕は、その人を見下ろしている。


誰だろう? あの人だろうか。

その姿は霧がかかっているみたいに、霞んで見えた。
何故か紅い、霞だった。


これから……どうするんだ?
 

「彼」が言った。声もよく分からない。
けれど僕は、震える声でそれに答えた。

生きたい。


それを聞いた「彼」が微笑んだ。今にも消えてしまいそうな笑みだ。

それでいい。
どんなに辛くとも…死んでは、いけない。


どうして……?

僕は訊ねる。


君の命は、君だけのものじゃ…ないんだ。
…君が死んでしまったら、君を愛する人達が、悲しむ、だろう。


……そんなワケない。

僕は声を荒げた。


そんなワケないです。僕は誰かに愛されてなんていない。
愛されていたら、あんな事には…。

体が、震える。


……でも、いつかきっと、君を…思う人が現れるよ。
それも…沢山、ね。


「彼」が優しく言ったけれど、僕はさらに声を張り上げた。


貴方は僕を護ってくれると言った。
貴方以外に、誰が、そんな事を言うというのですか。


彼はそれには答えなかった。否、答えられなかったのか。

聴き取れない程小さく、ごめん。と呟かれた、気がした。
最後まで一緒にいられなくて、


……それが、最後。




また。

また、うしなった。


二度と動くことの無い「彼」の身体にしがみ付いて。
ただ僕を映すだけの瞳を見つめて。呻いた。


堪え切れずに零した涙が、紅に落ちた。
そうして今更に、霞の正体を知る。


ああ。
痛い。痛い。
もう痛いのは嫌だ。


だから。

暖かさを失ってゆく亡骸に言った。



大切な人なんてもういらない。誰かを大切だって思うこともしない。


二度と、大切な人に、…………。

 

 


 



目が覚めた。夜明けの頃だった。

僕はしばらく横になっていた。
何だか、動けなくて。


昔の事を、夢に見た気がして。
大切な記憶だった気がして、でも思い出せなくて。

だって、あの人は死んでいない。いなかった。筈なのに。


傷痕が疼いた。

でもそれは、背の傷痕?
それとも。

 

鳥の啼き声が聞こえた。

ああ、もう朝だ。
もうそろそろ起きないと。


無意識の内に手を彷徨わせ、温もりを探す己に苦笑しつつ。
一つ伸びをすれば、心地よさが広がって。

同時にまた眠りたくなったけれど。


やっぱり、起きないと。


勢いよく立ち上がって、窓から外を覗いて。
爽やかな気分で、朝食の支度を始めた。


その時にはもう、全て忘れてしまっていたから。
 

何も。考えたりなんかしなかった。


 

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